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大阪高等裁判所 平成12年(う)649号 判決

所論は,本件各ビデオテープないし本件各写真の各被撮影者が何人であるかは特定されておらず,それらが人間であることについてすら合理的な疑いを容れる余地がある,という。

しかし,捜査報告書,写真撮影報告書,Xの警察官調書及び被告人の警察官調書など,原判決が挙示する関係証拠によれば,本件各ビデオテープにおいては,本件各写真の被撮影者である少女が性交又は性交類似の行為を行っている模様や全裸になって陰部を拡げている模様などが撮影されていることが認められるから,本件各ビデオテープの被撮影者が実在する人であることは明らかである。

(2) 各被撮影者が児童ではない可能性

所論は,本件各写真からは,各被撮影者の体格や発育状況をかろうじて識別できるものの,一般に,身長や乳房の発育状況などには個人差があり,思春期遅発症や小人症が存在することなどを考慮すると,体格や発育状況は,実際の年齢とは必ずしも一致しない。したがって,乳幼児を除けば,写真によるだけでは,その被撮影者が,医学的見地から見て,100パーセントの確率で18歳未満の者であると断言することはできない。医師A作成の鑑定書によれば,本件各写真の被撮影者の年齢が,18歳以上である可能性があると指摘されている。したがって,本件各ビデオテープの各被撮影者が18歳未満の児童であることについて合理的な疑いを容れる余地がある,という。

しかし,上記関係証拠,ことに捜査報告書ないし写真撮影報告書中の本件各写真から窺われる各被撮影者の容貌,体格,発育状況などに照らすと,本件各ビデオテープの各被撮影者はいずれも児童であると認められる。なるほど,当審証人である医師Aの証言及び同人作成の前記鑑定書によれば,本件各写真の被撮影者が思春期遅発症や小人症である可能性を医学的に否定することはできず,各被撮影者の年齢が18歳未満であると,100パーセントの確率で断言することはできないという。しかし,もとより,刑事訴訟における証明は,医学等の自然科学における証明とは異なり,裁判官に合理的な疑いを容れない程度に確実であるとの心証を抱かせれば足りるものであるところ,医師Aの当審証言によれば,本件各写真の各被撮影者が思春期遅発症や小人症などであることを窺わせる徴候はないというのであるから,上記の証言及び鑑定書によっても,本件各写真,ひいては本件各ビデオテープの各被撮影者が18歳未満の者であることに合理的な疑いを容れる余地はないというべきである。

判示事項2について

(1) 法2条1項について

児童ポルノも表現行為の一形態であるところ,表現行為を制限する法令の規定が非常に包括的な場合には,憲法上保護された表現の自由が不当に制約されるおそれがあるから,「より制限的でない他の規制手段」が考えられる場合には,それによらなければならない。ところで,婚姻可能年齢は,民法上男子は18歳,女子は16歳とされており(民法731条),また,刑法上の性的行為に同意することが可能な年齢は,13歳とされている(刑法176条,177条)のであるから,少なくとも16歳以上の女子には,法律上,性的な行為に同意する能力があり,性的自己決定権があるというべきである。法2条1項は,18歳未満の者を全て児童とした上,これを一律に児童ポルノ法における規制対象としているが,上記のように,児童のうちで性的自己決定権を有する者がいることに配慮すると,児童の年齢に応じて規制方法を変えるというように,「より制限的でない他の規制手段」を採ることを考えるべきである。したがって,法2条1項は,表現の自由に対する過度に広範な規制であり,憲法21条に違反している。また,下記のとおり,児童ポルノ法においては,児童ポルノの製造行為も処罰されることになっているのであるから,法2条1項が,一律に18歳未満の者をもって児童としているのは,性的自己決定権を有する児童が性的な表現を含むビデオに出演する権利を不当に侵害するものであり,同条項は,憲法13条にも違反する,という。

しかし,児童ポルノ法は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに,これらの行為などにより心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護することを目的としている(法1条)ところ,児童買春の当事者となったり,児董をポルノに描写することは,その対象となった児童自身の心身に有害な影響を与えるのみならず,そのような対象となっていない児童においても,健全な性的観念を持てなくなるなど,児童の人格の完全かつ調和のとれた発達が阻害されることにつながるものであるから,児童ポルノ法は,直接的には児童買春の対象となった児童や児童ポルノに描写された児童の保護を目的とするものであるが,間接的には,児童一般を保護することをも目的としていると解される。したがって,このような同法の立法趣旨にかんがみると,18歳未満の者を一律に児童とした上で,児童買春や児童ポルノを規制する必要性は高いというべきであるから,法2条1項が表現の自由に対する過度に広範な規制を定めたものとは言えないし,また,そのために所論にいわゆる児童の性的自己決定権が制約されることになっても,その制約には合理的な理由があるというべきであるから,同条項が憲法13条に違反するとも言えない。

(2) 法2条3項について

ア 所論は,法2条3項によって規制対象とされる児童ポルノとは,被撮影者となっている子供の人権を救済し,保護するという児童ポルノ法の規制目的に照らすと,被撮影者の氏名,住所が判明しているまでの必要はないにしても,具体的に特定することができる児童が被撮影者となっている場合に限るとすべきであるのに,同条項において,そのような特定を要求していないのは,表現の自由に対する過度に広範な規制と言うべきである,という。

しかし,前記(1)において説示したような児童ポルノ法の立法趣旨,すなわち,同法が,児童ポルノに描写される児童自身の権利を擁護し,ひいては児童一般の権利をも擁護するものであることに照らすと,児童ポルノに描写されている児童が実在する者であることは必要であるというべきであるが,さらに進んで,その児童が具体的に特定することができる者であることまでの必要はないから,所論のような規定が設けられていないからといって,法2条3項が,表現の自由を過度に広範に規制するものとは言えない。

イ 所論は,児童ポルノの被撮影者は,一見児童であるように見えても,18歳以上の者である場合があり得るから,検察官は,被撮影者となっている児童が存在し,その者が児童であることを積極的に立証する必要があるのに,法2条3項にその趣旨が明記されていないのは,表現の自由に対する過度に広範な規制をするものであって,憲法21条に違反する,という。

しかし,所論の指摘するような構成要件該当事実について検察官に立証責任があることは,刑訴法上当然であるから,法2条3項に所論指摘のような規定が設けられていないからといって,同条項が,表現の自由を過度に広範に規制するものとは言えない。

ウ 所論は,規制対象となる児童ポルノについて,法2条3項は,「写真,ビデオテープその他の物」で法2条3項各号のいずれかに該当するものとしているが,児童の権利を擁護するという立法目的に照らすと,規制対象とすべき児童ポルノは,被撮影者が実在する特定の児童であることが明らかである写真及びビデオテープに限られるべきであるのに,同条項において,「その他の物」を含むとしているのは,例えば,抽象画から漫画まで広がりがあり,実在する特定の児童を描いたものであるか否か判然とせず,したがって,規制対象に当たるかどうかの判断が恣意的になされる可能性が高い絵画まで含むことになるから,法2条3項は,表現の自由を過度に広範に規制するものであって,憲法21条に違反する,という。

しかし,児童が視覚により認識することができる方法により描写されることによる悪影響は,写真,ビデオテープに限られず,所論の指摘する絵画等についても同様であるから,法2条3項が表現の自由を過度に広範に規制するものとは言えない。

エ 所論は,①法2条3項2号,3号は,児童ポルノとして規制の対象とされる児童の姿態の描写について,いずれも「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件を設けてこれを限定しているが,性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを通常人が客観的に判断することは難しく,その判断基準は曖昧である。また,上記の要件を,刑法上のわいせつの概念である「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ,普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」という要件と対比すると,「いたずらに」という限定がないため,表現が性的に過度であることが要件とされておらず,規制の対象が広がっている。これらの点において,法2条3項2号,3号にいう「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否かを客観的に判断することは困難である。通常人は,児童の裸体等に性的興奮を覚えたり,それから刺激を受けたりしないのであるから,通常人を基準としてこれを判断するのであれば,児童ポルノに当たるものはなくなるし,また,子供の性に対して特別に過敏に反応する者を基準としてこれを判断することは,通常人を名宛人とする法規範の解釈としては許されない。したがって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否かの判断基準が明確ではないのに,これを要件とする法2条3項2号,3号は,漠然として不明確な規定であるから,憲法21条に違反するものであり,かつ,刑罰法規の明確性を要請する憲法31条にも違反するものである,という。

しかし,わいせつ物頒布等の罪を規定した刑法175条は,社会の善良な性風俗を保護することを目的とするものであるから,同条におけるわいせつの概念としては,普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するほどに著しく性欲を興奮,刺激せしめることを要するとされるのに対し,児童ポルノ法は,すでに前記(1)等において説示したとおり,児童ポルノに描写されることの害悪から当該児童を保護し,ひいては児童一般を保護することを目的とするものであるから,著しく性欲を興奮,刺激せしめるものでなくとも,児童ポルノの児童に与える悪影響は大きく,したがって,処罰の必要性が高いと考えられること,すなわち,両者の保護法益ないし規制の対象におのずから相違があることなどに照らすと,所論の指摘するところを考慮しても,法2条3項2号及び3号が,表現の自由に対する過度に広範な規制をするものとは言えないし,また,わいせつの概念が所論①のようなものであるにもかかわらず,刑法175条が憲法21条及び31条に違反するものでないとされていること(最高裁判所昭和58年10月27日判決刑集37巻8号1294頁,同昭和54年11月19日決定刑集33巻7号754頁等参照)などからしても,法2条3項2号及び3号が,漠然として不明確な規定と言えないことは明らかである。

オ 所論は,①表現行為を制限する立法については,立法の趣旨,目的とそれを達成するための規制手段との間に合理的関連性があることが要求される。児童ポルノ法の立法目的は,法1条に記載されているとおり,児童に対する性的搾取や性的虐待等の防止にある。ところで,一般的に言えば,性的虐待とは相手の意思を無視して暴力的あるいは強制的に行われる性的行為を言うが,児童の中でも高年齢の者は,性的自己決定権を備えているのであるから,「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為」一般が,法1条にいう児童の性的搾取や性的虐待に当たるとは言えない。したがって,児童ポルノとして規制すべき対象物を定めるに当たっては,上記のような性的虐待につながるものであること,すなわち,被撮影者の意思に反するものであることを要件とすべきである。しかるに,法2条3項1号が,被撮影者の意思に反することを構成要件としていないのは,立法目的とそれを達成するための規制手段との間に合理的関連性を欠いていると言うべきである。②また,法2条3項2号,3号についても,被撮影者の意思に反することを要件としていない点において,法1条の立法目的との合理的関連性を欠いているというべきである,という。

しかし,前記(1)等において説示したような児童ポルノ法の立法の趣旨,目的,ことに同法が,児童買春の対象となったり,児童ポルノに描写された児童の保護だけでなく,児童一般の保護をも目的としていることに照らすと,法2条3項各号が,児童ポルノで描写された被撮影者の意思に反することを要件としていなくとも,立法目的と規制手段との間に合理的関連性を欠くとは言えない。

(3) 法7条2項における規制対象行為について

所論は,法7条2項は,児童ポルノの製造,所持,運搬についても処罰することとしているが,これらの行為を禁じても,児童虐待を防ぐという立法目的を達成することはできないから,これらの行為をも処罰する法7条2項は,表現の自由に対する過度に広範な規制というべきであり,憲法21条に違反する,という。

ところで,法7条2項は,同条1項所定の,児童ポルノの頒布,販売,業としての貸与又は公然陳列の目的による児童ポルノの製造,所持,運搬等の行為を処罰するものであるところ,上記各行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず,このような行為により児童ポルノが社会に広がるときには,児童を性欲の対象として捉える風潮を助長するとともに,身体的,精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な悪影響を与えることになり,前記児童ポルノ法の立法の趣旨,目的にもとることになるものである。したがって,同条1項所定の製造,所持,運搬等の行為を処罰する必要性は高いというべきであるから,法7条2項において,上記各行為を処罰の対象としていることが,表現の自由を過度に広範に規制するものとは言えない。

(4) 各所論はいずれも採用することができない。

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